第1部 AIの全体像をつかむ
第2章AIの分類と全体像
ひとくちにAIといっても、その中身はさまざまです。何をするAIなのか、どうやって作られているのか、 どこまで対応できるのか。こうした軸で分類してみると、全体像がつかみやすくなります。分類は、細かく 暗記するためのものではなく、目の前のAIが「どのあたりのものか」を見当づけるための地図です。この章では 代表的な三つの軸でAIを整理し、その中でLLMがどこに位置づけられるのかを確認します。
2.1識別するAIと生成するAI
何をするかという観点では、AIは大きく「識別するAI」と「生成するAI」に分けられます。LLMは、文章という新しいデータを作り出す生成するAIの一種です。
識別するAIは、与えられた入力が何であるかを判断します。たとえば、届いたメールが迷惑メールかどうかを 見分ける、写真に写っているのが犬か猫かを判定する、来月の来客数を予測する、といった働きです。入力を 受け取り、あらかじめ決められた選択肢のどれに当てはまるか、あるいは数値がいくつになるかを答えるのが、 識別するAIの役割です。出力は「迷惑メールである/ない」「犬」「およそ120人」のように、比較的 こぢんまりとしています。
一方、生成するAIは、新しいデータそのものを作り出します。文章を書く、絵を描く、音声を合成する、 といった働きがこれにあたります。出力は、決められた選択肢の一つではなく、その場で組み上げられた 新しいコンテンツです。近年になって大きく進歩したのがこの生成するAIで、LLMは文章を生成するAIとして、 その代表例です。長い間、実用的なAIといえば識別するAIが中心でしたが、生成するAIが加わったことで、 AIにできることの幅が大きく広がりました。
具体例:識別と生成で、やっていることが違う
識別するAI(入力を見分ける・当てる)
・レビュー文が好意的か否定的かを判定する
・画像に写っている製品の種類を分類する
・過去の実績から売上を予測する
生成するAI(新しいものを作り出す)
・問い合わせへの返信文を書く
・指示に沿ってイラストを描く
・議事録を要約して整える
同じ「AI活用」でも、見分けたいのか、作り出したいのかで、選ぶ技術も評価のしかたも変わります。
身近なたとえ
識別するAIは、荷物を種類ごとに仕分ける係に似ています。目の前のものが何かを見て、正しい棚に振り分け ます。生成するAIは、注文に応じて新しく品物を作る職人に近い働きをします。見分ける仕事と、作り出す 仕事は、まったく性質が異なります。
2.2ルールベースと学習ベース
作り方という観点では、AIは「人がルールを書くAI」と「データから学ぶAI」に分けられます。現在の主流は後者で、LLMもデータから学ぶAIの代表です。
ルールベースのAIは、人間が「こういうときはこうする」という判断の手順を一つずつ書き下して作ります。 たとえば「体温が37.5度以上なら発熱と表示する」のように、条件と対応をあらかじめ人が決めておく方式です。 仕組みが分かりやすく、なぜその結論になったのかを説明しやすい利点があります。しかし、扱う対象が 複雑になると、書くべきルールが膨大になり、例外にも対応しきれなくなります。犬と猫を見分けるルールを 言葉だけで書き切ることを想像すると、その難しさが分かります。
学習ベースのAIは、人がルールを書く代わりに、大量のデータを見せてパターンを学ばせます。犬と猫を 見分けさせたいなら、たくさんの犬と猫の写真を与え、違いを自分で見つけさせるわけです。ルールを 書き切れないような複雑な対象でも扱えるのが強みで、いま実用化されているAIの多くはこの方式です。 ただし、学んだ内容が数値の集まりとして表されるため、なぜその結論になったのかを人が説明しにくい、 という難しさもあります。LLMは、膨大な文章から言葉のつながり方を学んだ、学習ベースのAIの極みといえる 存在です。学習のしくみは、第3部でくわしく扱います。
身近なたとえ
ルールベースは、レシピを一行ずつ書いて、そのとおりに料理を作らせるやり方です。学習ベースは、 たくさんの料理を食べさせて味を覚えさせ、似た料理を作れるようにするやり方です。細かく指示する のではなく、経験から身につけさせる点に違いがあります。
深掘り:なぜ学習ベースが主流になったのか(読み飛ばし可)
かつてはルールベースが中心でしたが、画像・音声・言葉といった対象では、人がルールを書き切ることが どうしてもできませんでした。「猫らしさ」や「自然な文章」を、もれのない条件として言葉にするのは 至難だからです。一方で、インターネットの普及で大量のデータが手に入り、それを高速に処理できる計算機も そろってきました。そこへ、注目すべき特徴そのものをデータから見つけ出す学習ベースの手法(第9章)が、 これらの対象で圧倒的な成果を上げました。この三つ、すなわちデータ・計算資源・手法の進歩がかみ合った ことで、主流が学習ベースへと移ったのです。この流れは第2部の歴史でも改めてたどります。
2.3特化型AIと汎用AI
対応できる範囲という観点では、「特定の作業だけをこなす特化型AI」と「人間のように何でもこなす汎用AI」に分けられます。現在実在するAIはすべて特化型で、汎用AIはまだ実現していません。
特化型AIは、一つの決まった作業に特化したAIです。将棋を指す、顔を認識する、翻訳する、といった具合に、 役割がはっきり定まっています。私たちが日常で目にするAIは、すべてこの特化型にあたります。これに対して 汎用AIは、人間のようにさまざまな課題に自分で対応できるAIを指します。分野を越えて学び、未知の問題にも 柔軟に対応する、というイメージですが、これはいまのところ研究上の目標であり、実現していません。
ここで少し注意が必要なのがLLMの位置づけです。LLMは、翻訳・要約・質問への回答・文章の作成など、 多様な作業を一つのモデルでこなせます。そのため、従来の特化型AIよりも幅広く見え、汎用AIが実現したかの ような印象を受けることがあります。しかし、LLMもあくまで「言葉を扱う」という範囲での特化型AIであり、 人間のように何でも理解して判断できるわけではありません。幅広く見えることと、汎用であることは別だと いう点を押さえておくと、過度な期待や誤解を避けられます。「汎用人工知能(AGI)が実現した」といった 表現を見かけたときも、この区別を思い出すと、冷静に受け止められます。
2.4全体像の中でのLLMの位置づけ
ここまでの分類を整理すると、LLMは「AIの中の機械学習、その中のディープラーニング、さらにその中の生成AI」という入れ子の内側に位置づけられます。
これまで見てきた分類は、それぞれ別々の話ではなく、重なり合っています。もっとも広い言葉がAIで、その 一部として、データから学ぶ機械学習があります。機械学習の中でも、層を深く重ねた方式がディープラーニング です。そして、そのディープラーニングを使って新しいデータを作り出すのが生成AIであり、その中で言葉を 扱うものがLLMです。次の図は、この包含関係を表したものです。
この図から分かるように、LLMはまったく特別な魔法ではなく、これまで積み重ねられてきた技術の延長線上に あります。画像を生成するAIも、同じディープラーニングを土台とする生成AIの仲間で、扱う対象が言葉ではなく 画像である点が違います。逆に、迷惑メールを見分けるような識別するAIは、生成AIの外側、機械学習の別の 領域にあります。こうして全体像の中に置いてみると、LLMがどんな仲間に囲まれているのかが見えてきます。
実務メモ:まず「識別か生成か」を見極める
AIで何かを解決したいとき、最初に考えるとよいのが「これは見分ける問題か、作り出す問題か」です。 見分ける問題(分類・予測)なら、必ずしもLLMが最適とは限らず、より軽く確実な識別の手法が向くことも あります。作り出す問題(文章の作成・要約・書き換え)なら、LLMが有力な選択肢になります。分類の地図を 持っていると、いきなり流行の技術に飛びつく前に、課題に合った道具を選べます。
本サイトでは、この入れ子の内側にあるLLMを中心に、外側の機械学習やディープラーニングのしくみも順に 見ていきます。次の章では、そのLLMを含むAIが、何を得意とし、何を苦手とするのかを整理します。
この章の要点
- AIは「識別するAI」と「生成するAI」に分けられ、LLMは文章を作り出す生成するAIです。
- 作り方では「ルールを人が書くAI」と「データから学ぶAI」があり、現在の主流でありLLMも属するのは後者です。
- 対応範囲では、実在するAIはすべて特定作業に特化した特化型で、人間のような汎用AI(AGI)はまだ実現していません。
- LLMは「AI ⊃ 機械学習 ⊃ ディープラーニング ⊃ 生成AI」という入れ子の内側にあり、言葉を扱う生成AIとして位置づけられます。