第6部 LLMを使いこなす

第24章ハルシネーションと限界

LLMを安全に使ううえで、避けて通れないのがハルシネーションという性質です。この章では、なぜもっともらしい 誤りが生まれるのか、その背景にある制約を整理し、限界を前提とした使い方を考えます。第6部の締めくくりとして、 LLMとの現実的な付き合い方をまとめます。

24.1ハルシネーションとは

ハルシネーションとは、LLMが事実と異なる内容を、もっともらしい文章で生成してしまう現象です。誤りが自然な文章に紛れるため、気づきにくいのが特徴です。

ハルシネーションとは、LLMが事実に反する内容を、あたかも正しいかのように生成してしまう現象を指します。 存在しない出来事を述べたり、誤った数値を自信ありげに答えたりします。やっかいなのは、その誤りが自然で 説得力のある文章に紛れて出てくることです。第3章でも触れたとおり、見た目のもっともらしさと、内容の 正しさは、必ずしも一致しません。

具体例:もっともらしいのに誤っている

あまり知られていない人物や、細かい出典を尋ねると、次のようなことが起こりがちです。

尋ねたこと ある専門書の著者と出版年
返ってくる答え 実在しそうな著者名と、それらしい年号を、断定的に提示
実際 その本や著者は存在しない、または年号が違う

答えの文章はいかにも正しそうで、口調にも迷いがありません。だからこそ、そのまま信じてしまいやすい のです。細かい事実や出典ほど、注意が必要になります。

24.2もっともらしい誤りが生まれるしくみ

ハルシネーションは、LLMが事実を確かめているのではなく、もっともらしい続きの言葉を予測しているという、しくみそのものから生まれます。

ハルシネーションが起きる理由は、これまで見てきたLLMのしくみから理解できます。第15章で述べたとおり、 LLMは意味や事実を確かめて答えているのではなく、これまでの文章に続くもっともらしい言葉を予測して います。学習した文章の中に、その問いに対する正しい情報が十分になければ、モデルは「それらしく見える」 続きを組み立ててしまいます。その結果が、事実と異なるもっともらしい文章、すなわちハルシネーションです。

身近なたとえ

うろ覚えの話題について、話の流れを止めたくないあまり、それらしい内容をつい口にしてしまう。人にも こうしたことがあります。LLMは、知らないと立ち止まるよりも、続きとして自然な言葉を出すように働くため、 似たことが起こりやすいのです。

24.3知識の鮮度と学習時点の制約

多くのLLMは、学習した時点までの知識で動きます。それ以降の新しい出来事は知らず、この制約も誤りの一因になります。

もう一つ押さえておきたいのが、知識の鮮度の問題です。多くのLLMは、学習を終えた時点までの情報で動いて います。そのため、学習後に起きた出来事や、新しく現れた情報については知りません。にもかかわらず、 問われれば何らかの答えを返そうとするため、古い情報にもとづく誤りや、推測による誤りが生じます。

最新の情報や、その時々で変わる事実を扱いたい場合は、この制約を補う工夫が必要になります。その代表的な 方法が、第8部で扱うRAGです。外部から最新の情報を検索して渡すことで、モデルが学習していない事柄にも、 根拠にもとづいて答えられるようになります。LLM単体の知識には期限がある、と捉えておくとよいでしょう。

24.4誤りを前提とした使い方

LLMは誤ることがあるという前提に立ち、重要な内容は人が確認する、事実確認の手段を用意する、といった使い方が現実的です。

ハルシネーションを完全になくすことは、現状では難しいとされています。そこで大切なのは、「LLMは誤ることが ある」という前提に立って使うことです。具体的には、重要な判断に関わる内容は人が確認する、事実は別の 確かな情報源で裏を取る、誤ってはいけない場面ではそのまま使わない、といった姿勢です。第3章で見た 役割分担のとおり、最終的な確認と判断は人が担うのが基本です。

実務メモ:誤りに備えるしくみを組み込む

ハルシネーションは「気をつける」だけでは防ぎきれません。仕組みとして備えることが有効です。たとえば、 事実が重要な用途ではRAGで根拠となる資料を渡し、その資料に書かれていないことは答えさせない、と 方針を決める。出力には根拠や出典を添えさせ、人が確認しやすくする。誤ると影響が大きい処理は、実行前に 人の確認をはさむ。こうしたしくみを最初から組み込んでおくと、誤りが致命傷になりにくくなります。 「誤る前提で設計する」ことが、実務での鉄則です。

こうした限界を知ることは、LLMを避ける理由ではなく、うまく使いこなすための土台です。得意なことは活かし、 苦手なことは補う。この現実的な姿勢が、LLMを役立てる鍵になります。次の第7部からは、こうしたLLMを 実際にアプリケーションへ組み込んで使う、開発の視点に話を移します。

この章の要点

  • ハルシネーションは、事実と異なる内容をもっともらしい文章で生成する現象で、気づきにくいのが特徴です。
  • これは、LLMが事実を確かめず、もっともらしい続きを予測するというしくみから生まれます。
  • 多くのLLMは学習時点までの知識で動くため、それ以降の新しい情報は扱えません(RAGで補えます)。
  • 誤ることを前提に、重要な内容は人が確認し、事実は別の情報源で裏を取る使い方が現実的です。
  • RAGや出典の提示、実行前の確認など、誤りに備えるしくみを設計に組み込むのが有効です。