第5部 LLMはどう作られるか

第19章RLHFとアライメント

指示に従えるようになったモデルを、さらに人にとって望ましい応答へと近づける調整があります。それが RLHFとアライメントです。この章では、人間の好みをどう教え、モデルの振る舞いをどう整えるのかを見ていきます。 私たちがLLMに感じる「感じの良さ」や「安全への配慮」の正体が、ここで見えてきます。

19.1人間の好みを教える方法

「良い応答」は一つに定まらないため、正解を直接与えるのではなく、複数の応答を人が比べて優劣を示すという形で好みを教えます。

応答の良し悪しには、はっきりした正解がありません。同じ質問でも、丁寧さや分かりやすさ、安全性など、 さまざまな観点で「より良い」応答が変わります。「これが唯一の正解」と一つに決めることが難しいのです。 そこで、唯一の正解を与える代わりに、モデルが出した複数の応答を人間が見比べて、どちらがより良いかを 示すという方法がとられます。

「AとBなら、Aのほうが良い」という比較は、ゼロから理想の答えを書くよりずっと楽で、判断もぶれにくく なります。こうした比較を大量に集めることで、人間がどのような応答を好むかの傾向を、モデルに伝えて いきます。正解を教えるのではなく、好みを教える、という発想がここでの鍵です。

19.2RLHF:人間のフィードバックによる強化学習

RLHFは、人間の好みを反映した評価をもとに、より好まれる応答を出すようモデルを調整する方法です。第8章で見た強化学習の考え方を応用しています。

RLHFは「人間のフィードバックによる強化学習」と訳されます。第8章で見た強化学習は、良い結果に報酬を 与えて行動を調整する方法でした。RLHFでは、この報酬の役割を、人間の好みを反映した評価が担います。 人が比較して示した好みをもとに、応答の良し悪しを見積もるしくみを作り、それを手がかりに、より好まれる 応答を出すようモデルを調整していきます。

モデルが 応答を出す 人が優劣を 評価する 評価をもとに モデルを調整 この繰り返しで、より好まれる応答へ近づける
図19-1 RLHFの流れ。応答・評価・調整を繰り返し、人間に好まれる応答へと近づけていきます。

深掘り:報酬モデルという代役(読み飛ばし可)

調整のたびに人がすべての応答を評価していては、とても数が足りません。そこでRLHFでは、人が示した好みを もとに「この応答は、人にどれくらい好まれそうか」を自動で見積もるしくみを、いったん学習で作ります。 これは報酬モデルと呼ばれます。以後は、この報酬モデルが人の代わりに点数を付け、その点数が高くなるよう に本体のモデルを調整します。人の好みを、いったん別のモデルに写し取り、それを使って大量の調整を回す、 という二段構えです。この工夫により、人手の限界を超えて、たくさんの調整を進められるようになります。

19.3アライメント:意図と安全に沿わせる

アライメントとは、モデルの振る舞いを、人間の意図や価値観、安全性に沿うように整えることを指します。RLHFはその代表的な手段です。

アライメントとは、モデルの振る舞いを人間の意図や価値観に沿わせることを指す言葉です。具体的には、 役に立つ応答を返すこと、有害な内容や危険な助言を避けること、事実に反する断定を控えることなどが 目指されます。RLHFは、このアライメントを実現するための代表的な手段です。指示に従えるだけでなく、 その従い方が人にとって望ましく安全であるように整える、という段階です。

たとえば、危険な行為の手順を尋ねられたときに、指示に忠実に従って答えてしまっては困ります。アライメントを 経たモデルは、こうした要求には応じないように整えられています。指示への従順さと、望ましさ・安全性の バランスをとることが、この段階の狙いです。

19.4調整によって変わる振る舞い

こうした調整により、LLMは丁寧で安全な応答を返すようになりますが、調整の方針しだいで振る舞いは変わり、万能になるわけではありません。

RLHFやアライメントを経ることで、LLMは、より丁寧で分かりやすく、危険な内容を避けた応答を返すように なります。私たちが対話型のLLMに感じる「感じの良さ」や「安全への配慮」は、こうした調整の成果です。 ただし、どのような応答を望ましいとするかは、調整の方針によって変わります。同じ土台のモデルでも、 調整のしかたが違えば、振る舞いは変わってきます。作り手が何を望ましいと考えたかが、モデルの個性に 表れる、ともいえます。

また、こうした調整を重ねても、第3章や第15章で見たハルシネーションのような性質が完全になくなるわけでは ありません。調整はあくまで振る舞いを望ましい方向へ寄せるものであり、正しさを保証するものではないのです。 作られたモデルの良し悪しをどのように測るのかは、次の章で見ていきます。

この章の要点

  • 良い応答は一つに定まらないため、複数の応答を人が比較して優劣を示す形で好みを教えます。
  • RLHFは、人間の好みを反映した評価を報酬として、より好まれる応答へモデルを調整する方法です。
  • 人の好みを写し取った報酬モデルを代役に使うことで、人手の限界を超えて大量に調整できます。
  • アライメントは、モデルの振る舞いを人間の意図や安全に沿わせることで、RLHFはその代表的手段です。
  • 調整により応答は望ましくなりますが、方針しだいで変わり、正しさが保証されるわけではありません。